
神経疾患の遺伝子病
総論
神経疾患と言われれば、中枢神経と末梢神経のいずれかに障害が起こることを指します。神経変性は六種類に分類できるとされています。
①血管障害
②変性
③炎症・脱髄
④発作性
⑤感染性
⑥腫瘍性
まずは考察問題にトライしてみましょう。
考察問題
問題1
筋ジストロフィーは遺伝子病であるが、その中でも遺伝子の変異によって様々な分類がされている。ジストロフィン遺伝子の塩基が3の倍数で欠損するBecker型と、3の倍数でなく欠損するDuchenne型では、Duchenne型の方がはるかに重症であるが、それはなぜか考察しなさい
問題2
Duchenne型ジストロフィーの治療法であるビルトラルセンはジストロフィンmRNA前駆体のエクソン53に結合し、スプライシングの過程でエクソン53を取り除くことで正常よりも短いものし、ジストロフィンタンパク質を作るという治療法である。この治療法は正常タンパク質を作成するわけではないにも関わらず、有効な治療法になるのか、考察しなさい。
解答1
Becker型は欠損塩基数が3の倍数であるため、遺伝子のリーディングフレームが保存されている。よって通常より短いが一定の機能が維持されたジストロフィンタンパクを作ることができる。しかし、Duchenne型は欠損数が3の倍数以外であるためどこかでストップコドンを作る可能性が高くリーディングフレームが破壊され、ジストロフィンができない。よって、Duchenne型が比較的重症となる。
(専門用語を使うとBecker型はインフレームであり、Duchenne型:アウトオブフレームということである。)
解答2
Duchenne型→Becker型へ変化させることで重症度を低下させることができる。(正常なジストロフィンを作る治療ではないため、根治治療ではない。問題2単体で出題された場合は問題1の内容を合わせて解答とする)
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有名疾患まとめ
この内容は神経疾患の辞書代わりにご使用ください。全てに目を通す必要はございません。
アルツハイマー病 Alzheimer disease:AD
一部のADに遺伝性がある、基本的に孤発性(遺伝性なし)
・認知症をきたす疾患の中で最多
・記銘力障害(=物忘れ)が初発症状
・[病理学的]大脳皮質・白質に著名な萎縮
・[組織学的]老人斑(アミロイドβ)、神経原線維変化(タウ蛋白)を認める
・原因遺伝子:APP、PSEN1、PSEN2(浸透率≒100%)
ヒント:
APP、PSEN1、PSEN2はコードするタンパク質全てアミロイドβ産生に関与している
病理学的には遅発性ADと同様、老人斑、神経原線維変化を認める
CADASIL
(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalo pathy)
・常染色体優性遺伝
・青年期に片頭痛発作から発症し、躁鬱病、脳卒中発作、進行性の認知機能障害をきたす
・原因遺伝子:Notch3
CARSIL
(Cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)
・常染色体劣勢遺伝
・青年期から若年青年期に発症
・原因遺伝子:HTRA1遺伝子
ヒント:HTRA1遺伝子
血管恒常性、毛周期、骨代謝に重要な役割を持つTGD-βを調節)
パーキンソン病
基本的に孤発性、遺伝性もあり
4大症候:運動緩慢、振戦、筋強剛、姿勢保持障害
→運動症状だけでなく、睡眠障害や精神障害も
・様々な要因により、中脳黒質緻密部のドパミン作動性神経が変性・細胞死を起こす神経変性疾患
・ドパミンの減少に伴い、脳内のネットワークが崩れ様々な症状が出現
・α-シヌクレインを主成分とするレビー小体が、黒質・青班核・瞑想神経背側核を中心にさあまざまなところに蓄積
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis:ALS)
9割型孤発性、C9orf72など原因遺伝子が発見されつつある
・上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが障害
▶️嚥下障害と呼吸筋麻痺が特に問題視される(小論文頻出)
・1869年にフランスの脳神経内科医シャルコーが報告され、ヨーロッパではシャルコー病と呼ばれる
球脊髄性筋萎縮症 Spinal and bulbar muscular atrophy(=SBMA)
・下位運動ニューロンのみが進行性に変性する
・X連鎖性劣勢遺伝(=ほぼ男性のみ)
・原因遺伝子:アンドロゲン受容体遺伝子群のCAGリピートの延長
→男性ホルモンを調整するリュープロレリン酢酸塩(LH-RHアゴニスト)が下垂体に作用し進行を抑制することができる
脊髄性進行性筋萎縮症 Spinal muscular atrophy(SMA)
・脊髄前角細胞(下位運動ニューロン)の変性による筋萎縮と進行性金力低下
・発症年齢・臨床経過により4型に分類
・小児発症の原因遺伝子:SMN遺伝子(スプライシングに関与)
・成人発症の原因遺伝子:未確定
・ゾンゲルスマによる治療可能(1億6700万円国内最高薬価)
→自己相補型アデノ随伴ウイルス9型のカプシド
ハンチントン病 Huntington
・常染色体優性遺伝
・HTT遺伝子によるCAGリピート病
・舞踏様不随意運動、精神障害、認知症
脊髄小脳変性症
・脊髄・小脳に病変の中心がある変性疾患
・歩行障害・四肢失調・眼振
・原因遺伝子:SCA1など
プリオン病
・急速に進行する認知症
・正常プリオンがが伝播性を有する異常プリオン蛋白に変化し、中枢神経内に蓄積することで神経変性を起こす疾患
・プリオン病の代表なタイプであるクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease:CJD)は覚えておく
・5類感染症に指定
以下、末梢神経障害の疾患
シャルコー・マリー・トゥース病
・下肢、特に下肢遠位部の筋力低下と感覚障害
・原因遺伝子:CMT
筋ジストロフィー
・骨格筋の変性、壊死を主病変とし、進行性に筋力低下と筋萎縮をきたす
中でも代表疾患
Duchenne/Becker型筋ジストロフィー
・動揺性歩行や関節の拘縮、Gowers症候をきたす
・原因遺伝子:ジストロフィン遺伝子
・同じ遺伝子が原因であるがデュシェンヌ型が重症で、ベッカー型がやや軽症(遺伝子の欠損様式による分類)
・[病理]筋線維の大小不同、壊死線維の染色性低下など
・抗ジストロフィン抗体への染色性が低下
・ゼルトラルセンが治療法
以上に加え、ミトコンドリア病も神経疾患を発症するため、確認しておこう